メビウスの桜

治らない奇病を抱えた少女は今日も庭園を見渡せる大きな窓辺の傍の寝台に臥せる。

不治の奇病の彼女が、少しでも苦痛無く過ごせるようにと専属の医者として彼女の看病と世話を仕った。

「先生」

そう私を呼ぶ彼女との暮らしは、私の生涯で1番の幸福と言うに相応しいだろう。外に出られない彼女の為に、彼女の窓から見える庭に花を植えて。彼女の為に奇病を和らげる注射を打ち、食事を作り与え。

「本当は、治るんですけどね」

1年前、彼女の奇病を治す薬が遂に完成した。全てのメディアを断ち切って、私は彼女に嘘をつく。彼女との幸せな暮らしを継続する為に。